投資しない、は安全な選択ではない
投資に対してリスクを感じる人は多いです。値動きがある、損をするかもしれない、難しそう——そういったイメージから、投資には手を出さずに銀行預金だけで堅実に貯めていこうと考えている方もいるでしょう。
その感覚は決して間違いではありません。ただ、現代の経済環境において「投資しない」という選択が本当に安全なのかどうかを、一度立ち止まって考えてみる必要があります。
結論から言えば、インフレが続く時代においては、現金をそのまま持ち続けることにも確実なリスクが伴います。投資をするかどうかに関わらず、私たちの資産は常に経済の動きにさらされています。投資をしないことは「リスクをゼロにする選択」ではなく、「別の種類のリスクを取る選択」なのです。
物価が上がるとは、お金の価値が下がることだ
インフレという言葉は耳にしたことがあっても、自分の資産にどう影響するかをリアルに考えたことがない方は多いかもしれません。
インフレとは、モノやサービスの価格が継続的に上昇することです。言い換えれば、同じ金額で買えるものが少なくなるということ、つまりお金そのものの価値が下がることを意味します。
総務省統計局のデータによると、2020年から2025年にかけて日本の消費者物価指数は継続的に上昇しています。身近なところでは、食品や光熱費の値上がりをすでに実感している方も多いでしょう。スーパーで同じ商品を買うのに以前より多くのお金が必要になっている、外食の値段が気づけば上がっていた——そういった日常の変化が、インフレの実態です。
仮に物価が年間3%ずつ上昇し続けた場合、現在100万円で買えるものが20年後には同じ100万円では買えなくなります。単純計算で、20年後の100万円の購買力は現在の約55万円相当にまで下がる計算になります。銀行の普通預金金利がほぼゼロに近い水準であることを考えると、預けておくだけでは物価上昇に対応できません。
日本の賃金はこの20年、実質的に増えていない
物価が上がっているにもかかわらず、日本の賃金水準は長期にわたって停滞しています。OECDのデータをもとにした実質賃金の国際比較では、1997年を100とした場合、多くの先進国が賃金を大きく伸ばしている一方で、日本はほぼ横ばいのまま推移してきたことが示されています。
額面の給与がそれほど変わっていなくても、物価が上がり続けていれば実質的な購買力は低下します。つまり、働いて得る収入だけを頼りにしていると、生活水準を維持するだけでも年々難しくなっていく構造があるということです。
これは個人の努力や仕事の質の問題ではなく、日本経済の構造的な現実です。その現実を直視したうえで、自分の資産をどう守り育てていくかを考える必要があります。
投資の本質は増やすことより守ることにある
ここで、投資に対する見方を少し変えてみることを提案したいと思います。
投資というと、どうしても「お金を増やすための手段」というイメージが先行しがちです。もちろんそれは間違いではありませんが、投資の持つもうひとつの重要な役割として「資産の実質的な価値を守ること」があります。
物価の上昇ペースと同等、あるいはそれを上回る形で資産を運用することができれば、お金の価値の目減りを防ぐことができます。現金で持ち続けることで確実に目減りしていく資産の価値を、投資によって維持する——これが「守るための投資」という考え方です。
一攫千金を狙うものでも、短期間で大きなリターンを追求するものでもなく、自分の資産の実質的な価値を時間をかけて維持・向上させていくというスタンスです。こう捉えると、投資のイメージが「攻め」から「守り」へと変わり、リスクに対する感覚も少し落ち着いたものになるのではないでしょうか。
長期投資が有効とされる理由
守るための投資として長期的な視点が重要とされる理由のひとつに、株式市場の長期的な傾向があります。短期的には景気の後退や金融危機などによって大きく下落する局面もありますが、世界の株価指数は長期で見ると右肩上がりの傾向を示してきました。
たとえばMSCI ACWIという世界の株式市場全体をカバーする指数は、過去50年間で平均年利8%程度の成長を示してきたとされています。もちろんこれは過去のデータであり、将来の同様のリターンを保証するものではありません。ただ、短期的な価格変動に一喜一憂せず、長い時間軸で資産を持ち続けるという戦略が、歴史的に一定の合理性を持ってきたことは事実です。
毎月3万円を20年間積み立てた場合、利息なしでただ貯金するだけであれば元本720万円にしかなりません。一方で年利5%で運用できた場合は約1,230万円、年利10%であれば約2,280万円になるという試算があります。この差は時間が長くなるほど広がっていきます。ただしこれはあくまでシミュレーションであり、実際の投資には元本割れのリスクも伴うことを忘れてはいけません。
知識がないことが、最大のリスクになる
投資にはリスクがあります。それは事実です。しかし知識がないままに投資をすることと、正しく学んだうえで投資をすることでは、リスクの質がまったく異なります。
知識がない状態で投資をすると、相場の一時的な下落に過剰反応して底値で売ってしまったり、根拠の薄い情報に流されて偏った商品に集中してしまったりといった判断ミスが起きやすくなります。一方、分散投資の意義や長期運用の効果、各金融商品の特性を理解していれば、感情的にならずに自分の方針に沿った行動が取りやすくなります。
投資における最大のリスクのひとつは、知識不足による判断ミスです。逆に言えば、正しい知識を持つことは、リスクを管理するための最も基本的な手段になります。
投資しないにも、コストがある
投資をしないことのコストは、見えにくいという特徴があります。損をしたわけではないので、何も失っていないように感じてしまう。しかし物価が上昇し続ける中で現金の価値が目減りしていくことは、確実に起きていることです。
これを「機会損失」と呼ぶこともありますが、難しい言葉を使わなくても、シンプルに「何もしないことにもコストがある」と理解しておくことが大切です。
投資を始めることを勧めているわけではなく、投資をするかどうかを自分で判断するために、まず正しい情報と知識を持ってほしいというのがこの記事の趣旨です。守るための選択も、攻めるための選択も、知識があってこそ意味を持ちます。お金のことを後回しにしない理由は、そこにあります。

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